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保健師のひろば

健康コラム 2020年11月号

2020.11.25

『治療と仕事の両立支援は、難しく考えすぎず、取り組みやすいことから始めてみる』

今月は、「治療と仕事の両立支援」のお話しをさせていただく機会があり、1回目は事業場の産業保健スタッフを対象、次は、病院の外来看護師を対象に実施させていただきました。対象によって担ってもらいたい役割や伝えたいことが異なるため、資料を作成しながら、あらためていろんな視点から両立支援を考えることができました。今回は講話でお話しした内容の一部を掲載します。
治療と仕事の両立支援は、それぞれの会社の「就業規則」に沿って行われるため、産保センターで対象者(治療中の労働者)に支援を行うときには、休職等の制度を確認するため、最初に「就業規則」の内容を確認します。しかし、たいていの場合は、見たことがない、という回答で確認を促す場
合が多く、東京都の患者調査でも、がん罹患時点での所得補償期間や身分保障期間について知っていた方は29.6%でした。就業規則は、労働基準法第106条で従業員への周知が義務となっています。
また、同じ調査で、治療を行いながら仕事をするために必要な支援・条件(複数回答可)という質問に対し、「柔軟な勤務制度の導入(48.9%)」や「休業制度の充実(36.5%)」など、制度が必要と回答した割合が高かったのですが、「がんに罹患したことを相談・報告しやすい職場の雰囲気(26.6%)」、「治療のために休暇を取得しやすい職場の雰囲気(31.5%)」についても回答した割合が意外と高く、このことから、制度はもちろん必要ですが、制度を気兼ねなく活用できる職場の雰囲気も必要と感じているということが考えられます。
これまで、相談対応や支援を実施し、本人と事業場のコミュニケーションが重要であることを痛感しています。本人が遠慮してしまい、勤務先に状況を詳しく伝えていない、事業場側も本人に任せて状況を確認していない、という状況では、治療と仕事の両立支援はうまく進まないことが多いです。
病院の医療相談室や産保センターでは、仲介役として間に入ってコミュニケーションがとれるようにサポートすることは可能ですので、抱え込まず、状況によって外部機関に相談することも大切だと思います。
事業場向けセミナー終了後に、産業保健スタッフの方からの個別相談にも対応させていただき、事業場では、身体的な病気よりもメンタルへルス不調の方の対応に困っていることが多いのかもしれないと感じました。セミナーでは職場復帰についてもお話しさせていただきましたが、本人の体調に配慮し、負荷軽減等を図ることは大事ですが、職場は基本的に労務を提供するところであり、リハビリをするところではないため、配慮にも限界があると思います。過度な配慮は、周りのスタッフのモチベーションを下げ、労働力低下につながる可能性がありますので、主治医の意見書、産業医の意見、職場環境の状況などを参考に、段階的な職場復帰プランを提示し、復職判定とその後の経過観察や定期的な評価を行うことが重要になってきます。
【まとめ】
・就業規則を従業員に周知することも、治療と仕事の両立支援のひとつである。
・相談できる、休暇取得や制度が活用できる職場の雰囲気づくりが大事(お互い様の風土)。
・産業保健スタッフは、日頃からの従業員とのコミュニケーションをとるように心がける。
・職場復帰の際の配慮は、様々な意見や職場環境等を踏まえて検討の上、段階的な職場復帰プランを提示し、経過観察、定期的な評価を行う(状況により再休職も検討)。

【参考資料】東京都がん医療等に係る実態調査結果(がん患者の就労等に関する実態調査)
平成31年3月 東京都福祉保健局

※健康コラムは来月から当分の間、お休みとさせていただきます。

担当:山形産業保健総合支援センター 産業保健専門職(保健師) 板垣

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